・夏野:せっかちな蝉。早口
・ヒグラシ:のんびりやな蝉
・アブラヤ:かっこつけな蝉。白スーツとサングラス
・働きアリ:けなげな少女
・女王アリ:女王様。ムチを持っている
・少年:虫捕り網と麦わら帽子

(3人がナンパする相手の蝉は実際にいてもマイムでもいい)

上演時間:20分

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【効果音「蝉鳴き声」】
  
夏野  あー、もう!
  【明転】
  【鳴き声フェードアウト】
夏野  何やってんだあいつらは、いつまで待たせるんだよ、あーもう
    夏終わっちまうよ、終わっちまうじゃねーか、準備にどんだけかかってんだ
ヒグラシ  お〜い、夏野〜。よー、おまたせ
夏野  ヒグラシ! てめー、おまたせじゃねーよ、のんきにノロノロやってきやがって
    何やってたんだよ、せめてもうちょいすまなそうな顔しろよ、まず謝れよ
    ああ、もういいよ、こんな会話してる時間もおしいんだよ
    で? アブラヤは? お前一緒じゃなかったのか? あいつどこだよ?
ヒグラシ  …………
夏野  おい、きいてんのか?
ヒグラシ  えーっと……遅れてごめん
夏野  おせーよ、もうその話は終わったんだよ、それよりアブラヤはどこだよ?
ヒグラシ  いや、ぼくも知らないよ?
夏野  マジかよ、あいつ信じらんねえ、もういい、待ってらんねーよ、先始めるぞ、よしいくぞ
ヒグラシ  あ、ちょっと待って。靴ひもほどけてた。
夏野  あー?靴ひも?あー、わかったよ、じゃあ早く結べよ
    あーもう何かにつけてすっとろいな、ほんとに、おまえは。
    でもまぁお前も気が長いけど、俺も俺でたいがいだよ
    よくもまぁ嫌にならずにお前の友人やってると思うよ
    まぁしょうがねえな、子どものころからずっと隣に住んでて
    まァ腐れ縁ってやつだな、なんの因果かね、なんで俺がこんなやつの面倒を、
    早く結べよ!
ヒグラシ  え?
夏野  なんでじっと聞いてんだよ!
ヒグラシ  いや、なんか喋ってたから
夏野  聞きながらでも靴ひもくらい結べるだろ!
    お前さあ、ほんと分かってる? 俺らの状況。時間ねーんだぞ、もう
    俺たち蝉は、一週間後に死ぬんだからな?
ヒグラシ  わかってるよ
夏野  ほんとにわかってんのかよ。相手見つける気あんのか?
ヒグラシ  あるって。
夏野  よーし、じゃ、さっそくナンパして来いよ
ヒグラシ  え、ぼくから?
夏野  お前がさっさと相手見つけないと俺も安心して自分の相手探せられないんだよ
    えっと、あ、ほら、あのことか、あれいいだろ、声かけてこいよ
ヒグラシ  え、ええ〜、ごめん、ちょっと待って
夏野  なんだよ?
ヒグラシ  まだ心の準備が……
夏野  心の準備は土の中でしとけよ! じゃあ七年間ずっと何やってたんだよ?
    あー、ほら、いっちゃった。
ヒグラシ  せっかちな子だなー
夏野  お前が呑気すぎんだよ! もういい、次あいつ、さっさと声かけろ!
ヒグラシ  あ、あの、すみません! えっと……メールアドレス交換してもらえませんか?
  やった! 交換してもらった!
夏野  おせえよ! なんでメールとかワンクッションはさむんだよ!
    いいだろ、もう、そこにいるんだから直接誘えば!
ヒグラシ  えー……あんまがっつくと余裕ない男みたいに思われるし……
夏野  余裕ないんだよ! 残り一週間なんだよ!
    つーか、なんでお前携帯持ってるの? いつ契約したの?
ヒグラシ  あー、昨日動けるようになって隣見たら、夏野まだ脱皮の途中だったからさ。
  待つのも暇だから携帯ショップいって契約してきた。
夏野  そんなんで時間つぶしてんなよ。先にナンパでも始めてろよ。
    なんで携帯だよ。いらねえだろ、そんなもん。
ヒグラシ  いや、でもこれ便利だぞ。遠くの人と喋れる。
夏野  遠くの人としゃべりたかったら、大声出せよ! みーんみーんって!
ヒグラシ  あー、ぼく大声出すの苦手で……
夏野  ……お前さ。前から思ってたんだけど、本当はセミじゃねえんじゃないの?
ヒグラシ  え?…………セミだよ!
夏野  いや、お前本当はカナブンかなんかだよ。
ヒグラシ  え?………………いや。セミだよ!
夏野  考えるなよ! あー、もう、いちいち遅いなお前は!
    とにかくセミなら携帯なんていらねえんだよ! 解約して来い
ヒグラシ  いや、解約は無理だよ。これ三年プランだから三年たたないと解約できない
夏野  三年後いねえよ、俺たち!
ヒグラシ  まぁいいじゃん、これでメールで誘えるし。
夏野  わかった。誘えよ
ヒグラシ  え、いま?
夏野  いまだよ。なうだよ。すぐ! すぐに!
ヒグラシ  わ、わかったって。えーと……ん、どうするんだ、これ?
  メール、新規作成で……こー、んー、にー、ち……あ、こんにつわになっちゃった。
  えっと、削除は……
夏野  ああああああっ! みいいいん、みんみんみん!
ヒグラシ  うわ、なんだよ、急に。
夏野  ふう、すっきりした……貸してみろ。俺、代わりに打ってやるから
ヒグラシ  え、あ、ありがとう。
夏野  で? なんて書くんだよ。
ヒグラシ  えーと、もしよろしければ、今度暇な時に、
夏野  暇なときねえよ! 一週間後に死ぬんだよ!
ヒグラシ  なんて誘おう?
夏野  ああ、そうだな、映画とかいいんじゃないか。
    デートっつったら映画だろ。ロマンチックな純愛もの。泣けるやつな。
ヒグラシ  わ、わかった。えー、一緒に「余命三カ月の花嫁」を……
夏野  泣けねえよ!こっちは余命一週間の花婿なんだよ!
    余命三カ月って! めちゃくちゃ長生きじゃねえか! むしろうらやましいよ!
ヒグラシ  えー、でも他に思いつかねえ……
夏野  あー、もう、なんでもいいよ。じゃあ、そう書いとくからな。
   一緒に見に、いきませんか、と。送信。はい。
  よし、次いくぞ次。
ヒグラシ  え、でもメールの返事来るかも……
夏野  返事待ちながらでもナンパできるだろ。とにかく数こなすんだよ数
  
アブラヤ  ヘイ。サマーボーイズ!
夏野  …………アブラヤ?
アブラヤ  待たせたな
夏野  待たせたなじゃねえよ! 待たせやがって。おせーんだよ、何やってたんだよ
ヒグラシ  かっこいー。なにそのかっこう
アブラヤ  イカスだろう? 今日この日のために、土の中で7年間ファッション雑誌を研究してたんだぜ?
夏野  だからか……なんか、7年前のセンスだよ。なんだ、そのサングラス
アブラヤ  これか……フッ……夏の太陽が、わずらわしくてな
夏野  セミが夏の太陽わずらわしがってんじゃねーよ。どっから持ってきた?
アブラヤ  あー、昨日動けるようになって隣見たら、お前まだ脱皮の途中だったからな
  待つのも暇だから原宿いって買ってきたんだぜ
夏野  お前らさぁ……なんで先にナンパ始めてないわけ? なんで俺を待つんだよ
ヒグラシ  そんなこと言われたってなぁ……
アブラヤ  ああ……っていうか、夏野の脱皮が遅いのが悪い
ヒグラシ  そうだそうだ。夏野はほんと……のんびりしてるよな
夏野  ぶっころすぞ、お前ら!
    ああ、もういいよ、じゃさっそくアブラヤ、ナンパいっとけ
アブラヤ  え、俺?
夏野  さっきヒグラシにやらせたけど、全然だめなんだよ。お前見本見せてやってくれよ
アブラヤ  フッ……いいだろう。
  (女の子通る。指をパチンパチン鳴らしてアピール。女の子は通り過ぎる)
アブラヤ  どうだ?
夏野  どうだじゃねえよ! なんだいまの!?
アブラヤ  クールだろう?
夏野  セミがクールでどうすんだよ! 声出してアピールしなきゃしょうがねえだろ!
    なにパチンパチン鳴らしてんだ。コメツキバッタか、お前は!
アブラヤ  バ、バッタだと……!?
ヒグラシ  ぼく、さっきカナブンって言われた
アブラヤ  なに? お前、カナブンだったのか?
ヒグラシ  えっ? ………………いや、セミだよ
夏野  あーもう! 頼むよ、お前ら! どーすんだよ! 時間ねーんだぞ、時間がー!
ヒグラシ  う〜ん……っていうかさ、一回夏野が見本見せてくれない?
夏野  俺?
アブラヤ  だな。俺たち、セミらしくとかよくわかんねーし
夏野  なんでセミのくせにわかんねーんだよ。
    ああ? 見本? おお、よし、いいよ。ちゃんと見てろよ。
    えーと、あ、じゃあ、あの子でいいな。
    ヘイ、彼女! 俺とエロいことしようぜ!
    いだっ!(ビンタされる)
    …………な?
アブラヤ  いや、逃げられてるじゃん! え、なに、今の?
夏野  単刀直入だよ。ぐだぐだやって結局失敗するより話が早いだろ?
ヒグラシ  え、でも、失敗してるんだから意味なくない?
夏野  いいんだよ! ナンパはとにかく数が大事だから。
    一日100回ナンパして、そのうち1回でも成功すりゃOKなんだよ!
ヒグラシ  今のじゃ100回全部失敗すると思うけど……
  
  (アリの女の子が大きな角砂糖を運んでいる)
  
夏野  とにかくお前らにも今みたいな感じでやってもうらから
アブラヤ  いやだぜ、俺は! そんなのクールじゃない……フールだ!
夏野  誰がフールだ。いいから、ヒグラシも……ん? おい、どうした?
  
ヒグラシ  あの子……
夏野  ん? ああ、働きアリか。あの子がどうした?
ヒグラシ  かっ、かわいい!
夏野  は?
ヒグラシ  すげーかわいい! ぼ、ぼく、声かけてこようかな……!
夏野  待て待て待て! アリだぞ!?
ヒグラシ  あ、有りかな!
夏野  有りじゃねーよ。アリだよ。無しだよ
ヒグラシ  え、え、え? アリなの無しなの、どっち?
夏野  アリだから無しなんだよ! 種族が違うんだぞ?
ヒグラシ  んん〜、まぁそこは別に気にならないけど
アブラヤ  ああ。夏の恋だぜ? ちょっとくらいはみ出しても許されるさ
夏野  ちょっとどころじゃねえよ! 体の大きさも全然違うんだぞ?
ヒグラシ  いいじゃん、ちょっとくらい小さくても
夏野  よくねーよ、大きくなきゃダメだよ
アブラヤ  この、おっぱい星人め
夏野  誰もおっぱいの話はしてねえよ!
アブラヤ  いいさ、いってこい。己の信じる道をいく、それが男ってもんだ
ヒグラシ  あ、ありがとう! よし、いってくる!
夏野  ちょっと待……あー行っちゃった。馬鹿だな、あいつ
アブラヤ  男ってのはいつだってバカな生き物なのさ……
夏野  お前がいうとある意味説得力あるな
ヒグラシ  あ、あの!
働きアリ  はい?
ヒグラシ  ぼく、ヒグラシっていいます! その……なにしてるんですか?
働きアリ  ああ、これ。角砂糖を巣まで運んでるんです
ヒグラシ  角砂糖、いいですよね。甘いものお好きなんですか?
働きアリ  はい。
ヒグラシ  じゃ、じゃあ、僕と駅前にスイーツを食べにいきませんか!
働きアリ  え、うーん……
アブラヤ  なかなかいい雰囲気みたいだぜ
夏野  あーもう、まどろっこしいなー早く、エロい事させてって言えよ
働きアリ  う〜ん、でも、やっぱり……ごめんなさい
ヒグラシ  ええっ
働きアリ  これを巣まで運ぶ仕事があるので。冬に備えて食料をためておかないと
ヒグラシ  今から冬に備えるんですか?
働きアリ  もちろん! まだ大丈夫なんて油断して、いざというときに慌てても遅いんです
  備えあれば憂いなし。冬に向けてしっかり準備しておかないと。
ヒグラシ  そ、そうですよね! わかりました! ぼくも今から冬に備えます!
夏野  必要ねえだろ!
働きアリ  え? あなたたちは?
夏野  あー、俺たちはこいつの友達です。おい、もう気が済んだだろ。行くぞ
ヒグラシ  ま、待って。せめてもう少しお話を……
働きアリ  ごめんなさい。もう仕事に戻らないと。さぼってると女王様に怒られてしまうから
夏野  女王様?
女王アリ  こらあ!
働きアリ  ひっ!
女王アリ  貴様、何をさぼっておる。許さぬぞ!
働きアリ  も、もうしわけありません、女王様!
女王アリ  ん? なんだ、こやつらは?
夏野  あー、俺たちはただの通りすがりで、あの、すぐに
アブラヤ  美しい……
夏野  えっ?
アブラヤ  あなたこそ俺の求めていた夏の妖精……ナマ足魅惑のマーメイド……
女王アリ  ……おい。こやつは何を言っておるのだ
夏野  俺たちもわかりません
女王アリ  その黒いメガネはなんだ?
アブラヤ  これは……あなたの美しさが、あまりにもまぶしすぎるから
女王アリ  ほほう……なかなか良い心がけだ。貴様、名前は?
アブラヤ  アブラゼミのアブラヤです
女王アリ  アブラゼミ……? ああっ! 外でミンミンと騒がしいのは貴様のせいか!
アブラヤ  はい、申し訳ありません!
ヒグラシ  すごい謝ってる……
夏野  あいつまだ一回も鳴いてないのに
女王アリ  このたわけめ!(ビンタ)
アブラヤ  いたっ! ありがとうございます!
ヒグラシ  ビンタされて御礼言ってるよ……
夏野  あいつ、ああいう趣味だったんだな
ヒグラシ  危ないね
夏野  アブノーマルだな
ヒグラシ  アブラゼミだね
女王アリ  罰として、これからはわらわの奴隷になるがよい
アブラヤ  はい! ありがたき幸せ!
女王アリ  わらわのために尽くし、わらわのために奉仕するのじゃ
アブラヤ  はい! 尽くします、尽くします、奉仕します! つくつく奉仕です!
夏野  ツクツクホーシってそういう意味じゃないぞ!?
女王アリ  さぁ次は貴様だ。仕事中にだらだらと怠けおって
働きアリ  お許しください、女王様!
女王アリ  いいや、許せぬ! 罰を与える!
ヒグラシ  待ってください! 俺が勝手に話しかけたんです。罰なら俺に与えて下さい
働きアリ  ヒグラシさん……
アブラヤ  いや! 罰なら俺に与えて下さい!
夏野  お前はただお仕置きされたいだけだろ!
  
夏野  ……ん? ちょっと待て。何か聞こえないか
  【BGM】
  【赤照明】
全員  え?
少年  わーい   わーい
夏野  その日昆虫類は思い出した……やつらに支配されていた恐怖を……!
少年  わー、虫がいっぱいいるぞー
夏野  に……人間だあーっ!
全員  わああああ!
夏野  逃げろー!
  【普通照明】
少年  あー、アリだー! えいっ(虫取り網)
働きアリ  きゃああ!
女王アリ  ああ! こっこの! 私の下僕に何をする! はなせ!
ヒグラシ  ああ!
夏野  おい、何やってるんだ、早く逃げるぞって!
  【BGMの音量を一気に下げる】
ヒグラシ  ぼくは、逃げない
夏野  はあ?
ヒグラシ  助けにいってくる!
夏野  待て、死ぬ気か? ただでさえあと一週間しか生きられないんだぞ?
ヒグラシ  一週間の命だからこそ。ぼくは愛する人のために人生を使いたい!
夏野  お前……
アブラヤ  よく言った! 俺もいくぜ!
ヒグラシ  よし、いこう!
  【BGMの音量を一気にもどす(あげる)】
アブラヤ・ヒグラシ みいいん、みんみんみん!(駆け回る)
少年  わー、セミだー! えい、えい!(つかまえようとする)
アブラヤ  くらえ、俺たちのひっさつわざ……!
  【BGM、カットアウト】
アブラヤ・ヒグラシ  アクア・スプラッーーシュ!(片足あげ)
  【効果音「水 ちょろろろろ」】
少年  う……うわー! セミにおしっこひっかけられたー!
夏野  やっとセミらしいことしたと思ったら、それー!?
少年  うわーん、おかあさーん!(退場)
ヒグラシ  やったね!
アブラヤ  ああ!
夏野  他にもっといい倒し方なかったのか?
働きアリ  かっ、かっこいい! ありがとうございます、ヒグラシさん! すごくかっこよかったです!
ヒグラシ  えっ、ほんとですか!
夏野  ええー、ほんとですかぁ?
アブラヤ  女王様、大丈夫でしたか?
女王アリ  バカ者! 助けるのが遅い!
アブラヤ  も、もうしわけありません!
女王アリ  つ、次はもっと、早く助けられるように……私のそばを離れちゃだめだからな!///
アブラヤ  ……はい! お任せください!
女王アリ  よし、それではわれらが人間を撃退した祝勝パーティーを始める!(退場)
働きアリ  いいですね。お二人とも角砂糖でいいですか?
ヒグラシ  いいです!
夏野  いいのか?
  (はたらきありも退場)
ヒグラシ  わあー! パーティーだって!
アブラヤ  やったな! 生まれて初めてだぜ! すげー、最高の気分の……あ。
夏野  …………
アブラヤ  ……あ、あのさ。悪いけどそういうことになったから。ナンパは一人で頑張ってくれ
夏野  お、おう
ヒグラシ  いろいろアドバイスくれてありがとうね
夏野  あ、ああ、気にするなよ……
アブラヤ  よし、いそごうぜ
ヒグラシ  そうだね。じゃあね、ばいばい(二人退場)
夏野  お、おう………………待って! そんなに急ぐことないだろぉ!?(後追って退場)

  【エンディング曲】

<閉幕>




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