『わんちゃん 〜One more chance〜』

 


配役(男4女3)  
・先生:男。インチキ霊媒師。神無月阿弥陀丸と名乗るが、本名は山田。  
・助手:女。先生の仲間。客には丁寧だが、実際は口が悪い。幽霊が見える唯一の人間。  
・千恵子:女。飼い犬の幽霊。見た目は普通に人間の少女。無邪気で元気。  
・兄:男。長谷川ユウイチ。先生を呼んだ金持ち。人がいい。  
・妹:女。長谷川レイカ。15〜17歳くらい。千恵子の飼い主。落ち込んでいて暗い。  
・執事:男。丁寧な物腰。  
・コック:男。心配事を抱えていてオドオド。  
  
上演時間:約90分  
  
------------------------------  
  
<開幕>  
  (上手スポット:妹 下手スポット:千恵子)
  
妹  う〜ん……(声きっかけで上下スポット)
妹  う〜ん……何がいいかな〜? う〜ん……あなた、何がいい?
千恵子  ハンバーグ!
妹  無難に……ぽち?
千恵子  ん〜?
妹  パトラッシュ
千恵子  ん〜?
妹  フランダース!
千恵子  ん〜?
妹  …………あ、千恵子!
千恵子  ちえこ?
妹  お母さんが言ってたの。もし私に妹ができてたら千恵子っていう名前をつけようと思ってたって。
  あなたは、今日から私の妹になるんだもん。だから千恵子!
千恵子  ちえこ……千恵子!
妹  よしっ、気に入った?
千恵子  うん!
妹  これからよろしくね! 千恵子!
千恵子  うん! よろしくね! レイカ!
  
  (暗転)
  (暗転→7秒後、明転)
  
  応接室(無人)→下手より、執事に案内されて、助手が入ってくる。
  
執事  どうぞこちらで。もう少々お待ちください。じきに旦那様が参ります
助手  はい。先生も、もうすぐ来ますので。
  (執事退場。助手電話をかける)
助手  もしもし、山田か? てめえ、今どこだよ! 私はもう着いてんだぞ?
  あ? 寝坊? 何やってんだ、バカ! 大仕事だっていうのに! 報酬わけてやんねえぞ!
  あ? ああ、そうだな。(きょろきょろしながら)すっげえ豪邸。これ相当の金持ちだよ
  よし。もう一回確認しとくぞ
  ええっと、対象者の名前は長谷川千恵子。15歳。
  趣味は散歩。好きな料理はハンバーグ。
  いつも元気で、明るい性格だったそうだ。ちゃんと覚えておけよ!
  あ……(耳すます)そろそろ来るみたいだな。じゃ、とにかく急げよ!
  それまでなんとか場をつないでおくから!
  (電話切る。)
  (兄、上手より登場)
兄  お待たせしました。長谷川ユウイチです。
助手  あ、助手の清水と言います。すみません。先生が遅れてまして、あと10分ほどで着く予定なんですが
兄  いえいえ。こちらこそお忙しい中申し訳ない
助手  あと、それと……このたびはご愁傷さまです
兄  ……はい
助手  亡くなられた妹さんなんですけど……
兄  あ、千恵子は私の妹ではないんです。血はつながってなくて、しかし実の妹同然にかわいがってきて……
助手  そうだったんですか……まだ15歳だったんですよね。
兄  はい……
助手  いつも明るく元気な方だとお聞きしました。
兄  ええ。散歩が大好きでね。いつもはしゃいで私の周りをぴょんぴょんと飛び回ってました
助手  そうですか
兄  ボール遊びが大好きでね、私がボールを投げると嬉しそうに口でキャッチするんです
助手  口で!?
兄  はい。
助手  ち、千恵子さん、すごいですね
兄  あとはフリスビーも好きでしたね。私が投げると、タタタっと走って、口でキャッチして。
助手  それも口で?! そうですか、そんなに元気な方だったのに……
兄  はい……風邪をこじらせて、15歳で……医者からは老衰だと言われました。
助手  そんなことはないでしょう!?
兄  まぁ犬としては長生きしたほうかと思いますが……
助手  ……犬?
兄  はい。何か?
助手  いっ、犬!? あ、あの……もしかして、千恵子さんって犬、なんですか?
兄  そうですよ。言ってませんでしたっけ?
助手  あ……あ〜、えーと……! すみません、ちょっと先生に電話を……!
  (先生、下手より登場)
先生  すっ、すみません、遅くなりました!
兄  おお、先生! お待ちしておりました! はじめまして、長谷川ユウイチと申します
先生  はじめまして。インドの山奥で30年の修業を積んだ奇跡の霊媒師! 神無月阿弥陀丸です。
兄  今日はよろしくお願いします。
先生  お任せください。千恵子さんの魂を、呼び出してみせましょう。
助手  先生、その前にちょっとお話が……!
先生  後にしなさい! ご主人だって早く千恵子さんに会いたいんだ。
助手  いや、だから、その千恵子さんなんですけど……!
先生  それでは口寄せを開始します。う〜ん、なむあみだぶつ、なむあみだぶつ……
兄  え? それ、成仏させるほうじゃ……?
先生  …………えー……エロエムエッサイム エロエムエッサイム。われは求め、訴えたり。
  えーと……かーごめかごめ、鶴と亀がすべった、ポコペンポコペン誰が最後につっついた、ポコペン!!
  ……ううん……ここは……?
兄  ち……千恵子か?
先生  ……そう。わたし、千恵子よ
兄  お前……いつ日本語がしゃべれるようになったんだ?
先生  えっ!? …………イエス。マイネーム イズ チエコ。
兄  英語もしゃべれるのか?
先生  ええっ!? ………………ジュテーム。
兄  お前あの世でどんだけの言語をマスターしてるんだよ!? 会話なんて全くできなかったのに!
先生  ええ!?いや…違うの。あの、天国ではね、こう、魂の存在だから
  言葉の壁とかそういうのはないの。意思さえ通じ合えば伝わるっていうか。
兄  そうなのか……うん、千恵子と言葉をかわすことができて嬉しいよ
先生  うん、私もうれしい
兄  今はどうしてるんだ?
先生  うん、天国で何不自由なく暮らしてるわ。安心して。
兄  そうか、天国に行けたんだな
先生  ええ。神様に天国行きを認めてもらえたのよ。今までいっぱい良い行いをしてきたからって
兄  あー。宝石店に押し入った強盗をやっつけたりしたもんな。
先生  えっ!? あ、うん。そうなの。うん、あのときは我ながら頑張ったよ!
兄  どんな感じでやっつけたんだ? 教えてくれよ。
先生  えーと……まずは、犯人のみぞおちに正拳づきを一撃。
兄  正拳づき!?
先生  で、犯人がひるんだところを、コブラツイストで
兄  コブラツイスト!? お店の人からは犯人の腕にかみついたって聞いたけど
先生  あっ、ああ、うん! 最終的にはね! だからこう、技をいろいろかけて、とどめが噛みつき。
兄  なるほど……あ、宝石店といえば、千恵子に聞きたいことがあったんだ。
先生  な、なに?
兄  ほら、この写真を見てくれ。
先生  これは……指輪?
兄  そうだ。見覚えあるだろ?
先生  あ、ああ〜うん、ある、あるよ。いや〜懐かしいな〜
兄  懐かしくはないだろ
先生  懐かしくはないな〜。
兄  つい先週だよ。おまえこれおもちゃだと思って、どっかに隠しちゃっただろ
先生  えっ!? あ、う、うん、そうなの、ごめんなさい。おしゃれだったから、ついつけたくなっちゃって。
兄  つけるの!? 千恵子が!?
先生  ご、ごめんなさい。まだ早かったよね?
兄  いや、早いというか……千恵子が指輪をつけたがってるなんて全く知らなかったな。
  知ってれば、もっと安いものを買ってきたのに。
先生  こ、これ、やっぱり高かったの?
兄  ああ。これ、50カラットの最高級ダイヤで時価10億円するんだよ
先生  えええー!?
兄  まったく、お前はそんなのをどっかへやっちゃって。
先生  ごっ、ごめんなさい!
兄  で? どこに隠したんだ?
先生  えーと、その……どこだったかな……ほら、私がいつもいるところ。
兄  いつもいるところ?
先生  そう! どこだっけ? どわすれしちゃったな〜。ほら、あの〜〜
兄  ああ、犬小屋か?
先生  そう、犬小屋! ……犬小屋!?
兄  違うのか?
先生  ち……ちがくないよ? そう、そこ。そこに隠した、かな、確か……
兄  そうか、あとで探してみるよ。
先生  う、うん。
兄  いや〜よかった。見つからなくて困ってたんだ。よし、お礼に何か御馳走してあげよう。何が食べたい?
先生  ハンバーグ!
兄  おお、やっぱりな。千恵子、ハンバーグが大好きだったもんな。
先生  そう、私、ハンバーグ大好き!
兄  そういうと思って用意しておいたんだ! お〜い!(上手にむかって)
  (コックが上手より、ハンバーグ持ってくる)
コック  お待たせしました。山形の最高級和牛をふんだんに使った地中海風クリームソースハンバーグでございます。
  (床に置いて、上手より退場)
先生  わ〜、おいしそ〜! 普通にうれしい!
兄  さぁ好きなだけ食べなさい。
先生  うん! えっと……箸は?
兄  お前、箸使うの!?
先生  つっ、使わないよ! 使わないよね! えっと……ナイフとフォーク……
兄  ナイフとフォーク!?
先生  もっ! 使わないよね! 使わない! ええええっと……スプーン?
兄  何言ってるんだ? 食事のときに道具なんて使わなかっただろ?
先生  ええっ?! あ、うん、だよねー……えっと、じゃあ……いただきます(手づかみ)
兄  手を使うの!?
先生  手もだめなの!? えっ、じゃあ、どうやって……
兄  いつもそのままかぶりついてただろ
先生  えええっ!? う、うん……だよね……覚えてる……じゃ、いただきます……(食べる)
兄  おいしいか?
先生  う、うん
兄  そうか、千恵子が喜んでくれると私も嬉しいよ
先生  ……あのさぁ。私って、本当に愛されてた?
兄  何言ってるんだ、愛していたさ!
先生  う、うん……ならいいんだけど……
兄  天国では走り回ったりしてるのか?
先生  う、うん、まあね
兄  千恵子は走るのが好きだったからな〜
先生  うん、私走るの大好き!
兄  どうだ、ここで走ってみてくれないか? また千恵子の元気な姿を見たいんだ
先生  わかった!(立ち上がり全力疾走)ふぅ……これでいい?
兄  ……お前……いつから二足歩行できるようになったんだ!?
先生  ええっ!? お、おかしいの!?
兄  おかしいだろ! 犬が立ち上がって走っちゃったら!
先生  ……犬? い……いぬっ!?
兄  犬だろ?
先生  あ、ああ〜っ! そうか! そ、そう! 私は犬よね! じゃなくて、犬だワン!
兄  何で急に語尾が変わってるんだ?
先生  気にしないでほしいワン! それより私を呼んだ理由を教えてほしいワン!
兄  ああ、うん。わかってるだろ。
先生  ま、まあね。わかってるよ……
兄  妹のレイカのことだ。
先生  あ〜、だよね〜! うん! だと思った! そうそう、レイカ! 私の妹!
兄  いや、俺の妹だよ。
先生  えあっ!?
兄  まあ、でも子供のころからずっと一緒にいたし……千恵子にとっても妹みたいなもんか。
先生  そう! そう! そういう意味!
兄  ただそのレイカがな、千恵子が死んでからずっと元気ないんだよ。
  学校にも行かず、ずっと引きこもってて……
  なんとか元気づけてやりたくて、こうして霊媒師の先生に頼んで、千恵子の魂を呼び出してもらったんだ
先生  な、なるほど〜
兄  いま、レイカ呼んでくるからな。
先生  わかったわん!
兄  待て!
先生  わん!(待てのポーズ)
  (兄、上手より退場)(見届けてから先生立ち上がる)
先生  ふぅ……おい! 千恵子って犬かよ! 教えとけよ、先に!
助手  教える暇がなかったんだよ!
先生  おいおい、俺むちゃくちゃ言っちゃったぞ。あやしまれてないかな
助手  そのかっこの時点で、だいぶあやしいけどな。なんなんだ、その服?
先生  ああ。昨日ユニクロで、霊媒師っぽい服を探してきたんだよ
助手  ユニクロなんでもあるんだ……あと、神無月阿弥陀丸って?
先生  かっこいいだろ?
助手  お前の名前、山田マサルだろ
先生  霊媒師っぽい名前を考えてきたんだ
助手  霊媒師っぽいかなあ?
先生  まぁ、あとは妹さんを元気づければ仕事終わりか……元気づけるって何すればいいんだ?
助手  犬だからなぁ……一緒に散歩するとか。
先生  おー。女の子と一緒に散歩かあ……
助手  首輪つけて。
先生  やだよ! それじゃ俺完全に変態じゃねえか!
助手  金をもらえるんだから我慢しろよ
先生  首輪つけて、よつんばいになって、女の子に野外歩かされて、それでお金もらったら、
  もう俺、完全に違う商売の人じゃねえか!
コック  あの〜……(上手より登場)
先生  は、はい!
コック  千恵子さん、なんですよね?
先生  う、うん! そうだわん!
コック  あの……俺のこと、覚えてますか!?
先生  えっ!? …………えっと、その……う、うん……覚えてる、よ……?
コック  …………ああああっ!!
先生  ええ!?
コック  まさか! まさか覚えられていたなんてえっ!!(泣き叫び)
先生  あ、あの、覚えてるって言っても、ほんと、おぼろげに、少しだけ、ほとんど忘れてるっていう……
コック  千恵子さん!!
先生  はい!
コック  その節は、本当にどうもすみませんでした!
先生  いや、だから、その……
コック  許して下さい!
先生  え、え?
コック  許して下さい!
先生  う、うん! 許す! 許すわん!
コック  おお……ありがとうございます!
先生  う、うん!
コック  それで……例のものなんですが。
先生  れ、例のもの?
コック  はい。例の。あのとき、千恵子さんが口にくわえて持っていってしまったアレです。どこへ隠したんですか?
先生  あ、ああ、あれね。あの……おいしい……
コック  ……?(顔をしかめる)
先生  い……くは、ない……あの……丸い……
コック  ……?(顔をしかめる)
先生  い……くもない。あの……あれは、その……確か……庭に埋めた、かな?
コック  庭ですね! わかりました! ありがとうございます!
  良かった……もしこのまま見つからなかったら、もう警察に行くしかないと思ってたところです。
先生・助手  ええ!?
コック  じゃ、さっそく探してきます!(上手より退場)
助手  いや、ちょっ、その……! お、おい! これやばくないか!?
先生  例のアレって何だろうな?
助手  しらねえよ。それより警察呼ばれたらまずいだろ。私たち免許とか持ってないし。
先生  え、霊媒師って免許いるの?
助手  そりゃあ……どうだろ?
執事  失礼します。お茶をお持ちしました(下手より入場)
先生  え、ああ、どうも……
執事  ……えっ? せ、先輩?
先生  は?
執事  山田先輩ですよね?!
先生  ……おお! 田所! うおお、久しぶりだなー!
助手  え、し、知り合い?
先生  おお、中学の時の後輩だよ! 卒業以来だな! いま何やってるんだ、お前?
執事  みての通りです
先生  もしかして執事? へー。
執事  先輩は?
先生  みての通りだよ
執事  ……大道芸人ですか?
先生  なんでだよ。俺は霊媒師だよ。
執事  え、もしかして今日千恵子さんの霊を呼び出すために来たのって先輩……?
先生  おお、そうだよ!
執事  先輩、俺と同じ戸塚中学出身ですよね?
先生  おお、そうだよ!
執事  今日来るのは子どものころから30年もインドの奥地で修行積んできた霊媒師って聞いてますけど?
先生  …………ナマステ
執事  え、先輩?
助手  ちっ、違うんです! インドはまた別の霊媒師で!
執事  あ、もう一人来るんですか?
先生  そうそう!
先生  え。もう一人来るの?
助手  うるせえ、バカ! あ。あー、じゃあ、今呼んできますから! おい、いくぞ!(2人、下手へ退場)
  (執事、首をかしげて下手へ退場。ハンバーグ皿をもってかえる)
  (無人のところに、上手から千恵子駆け込んでくる)
千恵子  ……やった! やったー! ただいまー! 帰ってきた! 帰ってきたよー!
  いや〜、危なかった〜! あやうく、あのまま連れてかれちゃうとこだったよ〜
  レイカー! どこー! わたし、かえってきたんだよー!
  (兄、下手から入ってくる。)
千恵子  あ! お兄さん! 久しぶり〜!
  (腕をひろげて待ち構える千恵子。歩いて近づく兄。抱き着こうとする、が、『すり抜ける』)
千恵子  ……えっ? あれ? いま……??
兄  (ポケットからボール出す、音鳴らす、見つめる)
千恵子  あ、私のボール! 投げて投げて!
兄  …………(ボールを投げず、持ったまま)
千恵子  ちょっと! 投げてくれないの!? あーもう、いいよ! レイカに投げてもらうから!
兄  おーい! レイカー! どこだー?
千恵子  そうだよ、レイカ、どこー!?
妹  ……(無言で静かに入ってくる。兄の背後からボール奪い取る)
兄  うわっ! れ、レイカ……!
千恵子  レイカ! 会いたかったー!(すり抜ける)……あれ?
妹  ……ボールっ ……勝手に持ってかないで。(兄に背中向けて)
兄  ご、ごめん
千恵子  わかった。勝手に持ってかない! だから投げて投げて!
妹  ……(無言で去ろうとする)
千恵子  ちょっと! レイカも投げてくれないの!?
兄  待て! ボールを持ってきたのは理由があるんだ
千恵子  理由って?
兄  いま、ここに千恵子が来てるんだ!
千恵子  うん、来てるよ。
兄  そして、霊媒師の先生の体に入っている!
千恵子  ……えっ? なに?
妹  ……嘘。インチキでしょ?
兄  いいや、あれは絶対に本物だ! 確かに千恵子だった!
千恵子  どういうこと?
兄  もしインチキだったら、鼻からラーメンを食べてもいい!
千恵子  どういうことっ!?
コック  あの! 庭に何もなかったんですけど!?(上手より入場)
兄  え?
コック  あっ。これはどうも……
兄  庭って?
コック  あー、いや、その……探し物が……
兄  探し物?
コック  えっと……帽子! コック帽が見当たらなくて、探してるとこなんですよ!
兄  頭にのってるけど。
コック  あっ! ほんとだー! あはは、気付かなかったー! いやー、ありがとうございます
兄  おお、そうだ。ちょうどよかった。いざという時のために、ラーメンを一人前作っておいてください
千恵子  ちょっ、本当にやるの!?
コック  いまあるのは唐辛子入り極太麺だけなんですけど、大丈夫ですか?
兄  大丈夫です!
千恵子  大丈夫じゃないよ!
妹  ……本当……なの?
兄  ああ! 本当に鼻から食べる!
妹  そうじゃなくてっ。……本当に、千恵子だったの?
兄  ああ。な? だから一緒に会いにいかないか? たぶん今別の部屋にいるはずだ。
妹  …………(無言で小さくうなず、下手へ退場)
千恵子  待ってよ! だから私はここにいるってば!(抱き着こうとするがすり抜ける)ええ〜っ?
兄  じゃあ、私たちは先生を探してくるから。
コック  はい。あ、ラーメンのゆで方どうしますか?
兄  ……バリカタで!(下手へ退場)
千恵子  待ってってば!(止めようとするが、すり抜ける)もう! なに、これ!? どうなってるの?!
コック  (部屋を探しはじめる)
千恵子  ねえ! ちょっと……え? もしかして……(顔の前で手を振る。叩こうとするがすり抜ける)私見えてないの?!
  おーい! おおおーい! わおーん! わんわんわん! ……声も聞こえてないの!?
  ええ〜っ! そんな……せっかくレイカに会いたくて、必死に逃げてきたのに……!(ガクッとうなだれる)
コック  くそっ! みつからない!
  どうする……もし「あれ」を誰かが見つけてしまったら……
  やりたくはないけど……いざとなったら、しかたない。そのときは、この家の住人を皆殺しか……!
千恵子  えっ!?
コック  よし。別の部屋も探してみよう
千恵子  ちょっ、ちょっと待って! み、皆殺し!? ダメ! そんなことはさせないよ!(両手を広げて止めようとする)
コック  ……(すり抜けて上手へ退場)
千恵子  待って! ああ、もう! ど、どうしよう、このままじゃみんなが……!
妹  …………
兄  う〜ん、どこいったんだ……?
千恵子  レイカ! 大変だよ! コックさんがみんなを殺そうとしてるの! 早く逃げて!(叩くがすり抜ける)
兄  もう、ここで待ってたほうがいいかもしれないな
妹  (座る。ボールは横に置く)
千恵子  だから待ってちゃダメだってばー!
先生  あ……(先生、助手、下手から戻る)
兄  おお、来た来た! 千恵子! さあ、おいで!
先生  わ……わん! わんわん!
千恵子  ……ちょっと! なに、こいつ!!
兄  ほら! レイカだぞ〜!
先生  わ……わーい! レイカー! 久しぶりだワン!
妹  これが……千恵子?
兄  そうだよ。ほら、どうみても千恵子だろ。なぁ?
先生  そうだわん! 千恵子だワン!
千恵子  私、こんな喋り方しないよ!
兄  お手。
先生  わん!
兄  おすわり
先生  わん!
兄  一発ギャグ。
先生  っ!? ……わんだふる!(ゲッツorシェーのポーズをしながら)
兄  なっ? 千恵子だろ?
妹  偽物じゃん!
兄  こら! 千恵子に何てこと言うんだ!
妹  千恵子はこんなに気持ち悪くないよ!!
千恵子  そうだそうだ!!
兄  どこが気持ち悪いっていうんだ! ごめんなー千恵子。よーしよしよし。(腹をなでる)
先生  わふっわふわふ!
妹  …………!(上手へ退場)
兄  ま、待ちなさい、レイカ! 何だいったい……? お前の何が気に入らなかったんだ?
先生  わからないわん。
兄  待ってなさい。すぐに、つれもどしてくるから。
千恵子  待ってよ! だから、私はここに……!
兄  おすわり
  (先生と千恵子両方座る。兄、上手へ退場)
先生  ふぅ……やばいな。インチキってばれちゃったかな
助手  しっ! ば、ばかやろう! インチキとか言ってんじゃねえよ!(胸元つかみあげる)
先生  え? 大丈夫だろ。誰も聞いてないし
助手  そいつが聞いてるだろ!
先生・千恵子  えっ??
先生  そいつって……どいつ?
助手  だからそいつだよ、そいつ! そこにいる女!
先生  はぁ? (椅子の後ろとか覗き込む)……どこ?
千恵子  お……お姉さん、もしかして見えるの!?
助手  見えるって……何が?
先生  お(椅子の上におかれたボール見つける。音が鳴る)はは、なんだこれ。
千恵子  あー! 私のボール、勝手に触らないで!(ボール取る)
先生・千恵子  えっ!? 
千恵子  あれ? ボールには触れた。
先生  なんだこれ……?(ボールまじまじと見つめる。千恵子がボールを鳴らす)うわああああっ!?
  (逃げる。千恵子はボール持って追いかける)
先生  うわあっ、! な、なんだこのボール!?
助手  おい! 遊んでる場合じゃねえだろ!
先生  誰も遊んでねえよ! なんなんだ、このボール!?(助手の背中に隠れる)
助手  おい。私たちは仕事中なんだよ。遊ぶなら他の人と……(肩触ろうとしてすり抜ける)
  ……え?(もう一度触ろうとして、またすり抜ける)
  …………うわあああっ!? お……お前、いったい……?
千恵子  私の名前は……千恵子。
助手  はあ?
千恵子  レイカに会いたくてあの世から逃げてきた、レイカの飼い犬だよ!
助手  はあああああっ!? (→オープニングへ)
  OP曲スタート(@OP曲)
  曲をバックに無言劇
  基本的に全キャラが下手から出て、上手へはけていく
  
  千恵子、自己紹介のあと、助手に迫る
  助手、おびえて逃げる(上手へ)
  
  千恵子、ボールをほうりなげて、追う(上手へ)
  
  先生、床に落ちたボールをおそるおそるつつく。しばらくしてから助手を追って上手へ。
  
  コック下手から。部屋をあさる。このときソファのクッションを乱しておく。
  しばらくしてから、兄、下手より入場。なんか話す。
  コック、ごまかすようにしながら、上手へ退場
  
  入れ替わるように、執事入場。
  兄は執事に何か話して、上手へはけていく。
  
  執事、クッションの位置やソファを整え、上手へはける
  
  入れ替わりで、妹ボールを探しに下手より入場。
  床に転がってるボールを見つけ、小走りで駆け寄り、大切そうにつかむ。
  ボールを見つめ、上手へ退場
  
  入れ替わりで下手より、逃げる助手、追う千恵子、追う先生、入場。
  
  助手、先生に、そこに幽霊がいる〜的なことを話す
  千恵子は中央に立って、助手に何か訴える
  助手と先生は下手側。助手は先生の背中に隠れて、千恵子をおそるおそる見つめる。
  
  曲フェードアウト→本編再開
  (オープニング後。千恵子中央。下手に先生とその背中に隠れる助手)
  (助手、おそるおそる千恵子の体を触ろうとするがすり抜ける。2,3回繰り返す)
  (今度は千恵子の方から助手の体にさわる、すり抜ける)
  
助手  ひいいいっ!(先生の背中に隠れる) ほ、本物だよ……!
先生  信じらんねえ……マジでいるの? そこに? 千恵子?
助手  いるんだって! お前こそ本当に見えないのか!?
先生  全然見えない……(違う方向)
助手  (向き調整)
先生  あ、こっち? うーん、全然見えない……お前、こんな力あるなら教えといてくれよ
  だったら俺インチキ霊媒師なんてやる必要なかったのに。
助手  私だって幽霊なんて見たの初めてだよ!
先生  今からでも遅くないな。役、交換しよう!
助手  バカ言ってんじゃねえよ! もういいから逃げるぞ! こんな幽霊屋敷いられるかよ!
先生  ……幽霊、怖いのか?
助手  はっ、はあ〜!? 怖いわけねえだろ! この私が幽霊ごときにびびるわけが、
千恵子  ちょっと!
助手  ひいいっ!? な……なんですか?
千恵子  そんなことより、私のお願いをきいて!
助手  え?
千恵子  お願い! このままだとレイカの命が危ないの!
助手  い、いやぁ、聴いてあげたいのはやまやまだけど、私たち、これから大事な用事があって。
先生  用事なんかないだろ
助手  てめええっ!!
先生  なに? 千恵子、なんていってんだ?
助手  なんか、私たちにお願いがあるって。
先生  へ〜、いいよ。なに?
助手  いいよって……。幽霊の頼みなんてきくつもりか?
先生  でも最後のお願いだろ。きいてあげなきゃ、かわいそうじゃない?
助手  バカか! 下手に関わると呪い殺されるぞ!
千恵子  そんなことしないってば!
助手  ひいっ!(先生の背中に隠れる)
千恵子  きいてくれたら私の宝物あげるから
助手  ……宝物?
先生  宝物? なにが?
助手  きいてくれたら宝物くれるって
先生  宝物って何?
千恵子  なんかよくわかんないけど、ピカピカしてて
助手  ピカピカしてて?
千恵子  こう、指にはめる
助手  指にはめる……それってまさか!
先生・助手  ダイヤの指輪!?
先生  それってさっきの10億円するっていう……
助手  お任せください、千恵子さん! この私めになんなりとご命令を!
先生  お前……!
助手  だって10億円だぞ。命を賭ける価値はあるだろ!
先生  いいけど……報酬は山分けって約束、覚えてるよな?
助手  あーはいはい。それで、お願いしたいことって?
千恵子  あなたの……あなたの体が欲しいの。
助手  ……は?
先生  なに、なんだって?
助手  なんか……いやらしいセリフを言われた。
千恵子  いやらしくないよ! しばらくの間、体にとりつかせてほしいって言ってるの!
助手  とりつく?
千恵子  レイカにどうしても伝えなきゃいけないことがあるの。
  だけどみんなは私が見えない……。だから、あなたの体を貸してほしいの。
助手  い、いやだよ! だって返してもらえる保障ねーだろ!?
千恵子  絶対返す! ちょっと話してすぐに返すから!
助手  いやだって!!
先生  なに、何て言ってるんだ?
助手  ……山田さんにとりつきたいから、山田さんの体を貸してほしいそうです。
先生  ええっ!? なんで俺? 清水のほうがいいだろ!
助手  なんで私が。
先生  だってお前千恵子が見えるんだろ?
  こういうのは霊感があって、波長が合う人間の体の方がいいんじゃないか?
千恵子  う〜ん、確かに一理あるね……
助手  ……そんなことはないって言ってる
千恵子  言ってないよ?
先生  ええ〜……じゃ、わかった。じゃんけんで負けたほうにしよう。
助手  わかった、いくぞ。最初はぐー。じゃんけんぽい(ぐー)
先生  (ぱー)やったー! 勝ったー!
助手  あっちむいて、ほい!(客席側)やったー! 勝ったー!
先生  ちょっと待てよ! いきなりルール変えるなよ!
助手  いいや、最初からあっちむいてほいと言ってたね〜
先生  仮にそうだとしても、なんで負けたお前が指、さすんだよ!
助手  でも、千恵子も山田のほうがいいみたいだし
千恵子  別にそんなことはないよ。
助手  ん? ふむふむ……そうだって言ってるよ
千恵子  言ってないってば!
先生  ……いや、でも……
助手  ん? ……ふむふむ。なにっ? どうせとりつくならハンサムでイケメンな人がいい、だって?
先生  ……ったく! しょうがねえな! よし、わかった、こい!
千恵子  う、うん。まぁいいけど……じゃ、いくよ(近づく)
  (暗転3秒)(暗転中に千恵子は退場)
先生  うっ! ぐあああああ!(暗闇の中で)
  (明転)(先生は倒れてる)
助手  や、山田? 大丈夫か?
先生  う、ううん……あ! あー! すごい! ちゃんと入れた、やったー!えへへ!
助手  ち、千恵子?
先生  うん! あたし、千恵子!
助手  お手。
先生  おてっ!
助手  ほ、本当に千恵子なんだ……
先生  ありがとー! これでみんなと喋れるよ〜!(抱き着こうとする)
助手  うわあ! ちょっ、ストップ! 待て! おすわり!
先生  (おすわり)
助手  嬉しいのはわかったから、あんまり近づくんじゃねえ
先生  わかった! じゃ、さっそくレイカ探してくる!(下手へ退場)
助手  あ、ちょっと待て! 私も行く!(下手へ退場)
  (コック下手より入ってくる)
コック  だめだ……! どこにもない……!(うなだれる)
  どうしよう、このままじゃ俺は……!
  (兄上手より入場)
兄  ん? どうした?
コック  うおお! い、いえ、なんでもありません!
兄  なんか落ち込んでたみたいだけど……あ。ラーメン失敗したとか?
コック  いえ。それはもう完成して、食卓に用意してあります
兄  おお〜。きみは本当に仕事が早いな〜。
コック  いえ、それほどでも……
兄  きみが先週、いきなりここで働かせてくれって飛び込んできたときはどうしようかと思ったけど、
  いや〜。素晴らしい人材を雇えて、私もうれしいよ
コック  いえ、その……
兄  これからも、ずっと、よろしく頼むよ!
コック  …………あの! 実は俺、ここに来たのは……!
兄  なに?
コック  …………いえ、なんでもないです
兄  どうした、元気がないなあ? きみの仕事は評価してるんだから、もっと元気出してくれ
コック  …………
兄  コックの仕事はずいぶん長くやってたの?
コック  はい。でも半年前、うっかり砂糖と塩を間違えて、首になってしまって……
兄  ずいぶんベタな失敗するなぁ
コック  それからは次の仕事も決まらず、しばらく路頭に迷って……
兄  そうなのか。じゃあ、最近の仕事は?
コック  最近は、先週、宝石店をおそって……
兄  宝石店をおそ……?
コック  おそっ! おそ、おおおおおそうじっ! 宝石店をお掃除する仕事をしてました!
兄  へー。あ、宝石店と言えば。知ってる? 先週近所の宝石店に強盗が入って。
コック  !! へっ、へえ〜、そうなんですか
兄  ほら、駅前に大きな宝石店があるの知らない?
コック  いや〜、知らない知らない。駅って何?
兄  いや、駅はわかるでしょ。で、そこに強盗が。なんでも首の後ろに大きなほくろがあったって。
コック  へ、へ〜。(首を隠す)
兄  あと脇がくさかったって
コック  ええっ!?
兄  ど、どうしたんですか?
コック  あ、いや、なんでも……え……?(こっそりと自分のにおいかぐ)
兄  で、その強盗をね! うちの飼い犬が、みごと撃退したんだよ!
コック  そ、そうですか……
兄  腕におもいっきりかみついてやったとか。
コック  ……(腕をさする)
兄  あとコブラツイストをかけたとか。
コック  それはされてませんよ!?
兄  え?
コック  い、いえ。それで、あの〜、その宝石店から帰ってくるとき、千恵子さん、なんかくわえてませんでした?
兄  え? いや、特に気づかなかったけど
コック  そうですか……
兄  あ。じゃあ、私はレイカを探してくるから。ラーメンは置いといて。
  レイカが元気になったら、普通に口から食べるから。(上手より退場)
コック  は、はい。……はぁ(退場)
  (先生(憑依状態)と助手、下手より入場)
先生  うぅ〜、疲れた……!
助手  早く走りすぎなんだよ……
先生  ええ〜、そんなことないよ。前はもっと速く走ってたよ。百メートル9秒くらいで。
助手  まぁ、体は山田の体だからな
先生  レイカも見つからないし。困ったなー
助手  どこか心当たりの場所はないのか?
先生  う〜ん。ジョンなら知ってると思うけど
助手  ジョンって?
先生  私の親友! いっつもレイカやお兄さんたちのまわりをうろちょろしてるの
助手  あ、もう一匹飼ってんのか
先生  たぶん大声で呼べば来るんじゃないかな。ジョンは頭いいし、人なつっこいから。
助手  そうか、それじゃ……ジョーン! おーい、ジョーン! 早く来い、頭なでてやるから!
  (執事、下手より入場)
執事  お呼びでしょうか、お客様
助手  ええっ!? 
先生  ジョン!
執事  はい。なんでしょうか
助手  ま、まってください、あなたジョンさん?
執事  はい。私、ハーフなんです。フルネームは田所(たどころ)ジョン
助手  そ、そうですか……
執事  それで何かご用でしょうか? 確か頭をなでるとか聞こえてきましたが、
先生  ねえ、ジョン! レイカどこにいるか知らない?
執事  申し訳ありません。わかりません
先生  そっかー、どこいっちゃったんだろ
執事  ほかに何かご用はございますか?
先生  なんでもいいの?
執事  ええ、なんなりとご命令ください。
先生  じゃあ、だっこ!
執事  ……はい?
先生  わーい、ジョン!(抱き着く)
執事・助手  ええっ!?
先生  ジョン、大好き!!
執事・助手  ええええっ!?
執事  ちょっ、ちょっと待ってください! 本気ですか!?
先生  うん!
執事  う……う…………嬉しいなあ! 実はずっと隠してましたが……私も昔から先輩が好きだったんです!
助手  ええええっ!?
執事  再会してから、ずっとドキドキしていて……そうか、先輩もこっち側だったのですね。やった!
先生  やったー!
助手  ええええ……!(執事と目が合う)あ、いや! 私は関係ないので! どうぞごゆっくり!(下手へ退場)
執事  さぁどうぞ座って。二人の将来について語り合いましょう。
先生  うん。私はジョンと一緒に、夜景のきれいな公園を、首輪を鎖でひかれながら散歩してみたい!
執事  ……素敵な夢です。そうだ、ワインを出します! 一緒に乾杯しましょう!
先生  うん!
  (執事、下手へ退場。先生しばらくしてうずくまる)
先生  うっ、うう……!
  (暗転3秒)(その間に千恵子出てくる)
先生  うう、頭が……ええっと、確か俺は……
千恵子  う〜ん……あれ? 出てきちゃった
先生  あ、そうだ、取りつかれてたんだ……ええっと……千恵子? いるのか?
千恵子  いるよー
先生  ええっと、やりたいことはやったのか?
千恵子  まだ! レイカが見つからないんだよ
先生  くそっ、全然わかんねえな……
  あ、そうだ! じゃ俺の背中にメッセージ書いてくれ!
千恵子  背中に?(触ろうとするが、すり抜ける)あ〜。だから触れないんだって。
先生  さぁ、早く!
千恵子  無理だってば。もういいよ。私レイカ探してくるから。
  おじさんは私の代わりにジョンと公園を散歩しておいて!じゃ、また後でね!(上手へ退場)
先生  ほら早く! 早く書いてくれ!
執事  ……(執事、下手よりラーメン持って入場。首をかしげる)
先生  俺に伝えたいメッセージを背中に書いてくれ!
執事  ……(書き出す)
先生  おっ! え〜と? あ。い、ら、ぶ、ゆ、う…………? (振り返る)うわあ!
執事  先輩、どうしたんですか?
先生  あ、いや、べつに? ん、それは?
執事  すみません、ちょうどワインを切らしていて。
  代わりに食卓にラーメンが置いてあったので持ってきました。さぁ、どうぞ
先生  え? そんなんもらっちゃっていいの?
執事  もちろんです。先輩のためにお持ちしたのですから。
先生  じゃあ、えんりょなく。
  (執事と並んで座る)
執事  はい、あ〜ん。
先生  い、いや、自分で食えるよ
執事  いいじゃないですか。あ〜ん
先生  ま、まぁいいけど……からっ! めちゃくちゃからい、これ!
執事  ええっ!? 大丈夫ですか!?(ラーメン皿は横に置く)
先生  唐辛子入ってるよ、これ……うあー、舌と唇がピリピリする
執事  舌と唇が!!? それは大変です! 見せてください! すぐに舐めて消毒しますから!
先生  な、なんでだよ! おかしいだろ、それは!
執事  さあ! さあさあ!
先生  ちょっ、ちょっと待っ……た、田所! な、何なんだ、お前……ちょっ、だ、だれかー!
助手  どうした!? あ、すみません、お邪魔しました!(下手より)
先生  邪魔じゃないから! 助けてくれ! くっ、こ、この野郎! 離れろー!(殴る)
執事  ぐはあっ!(ソファのかげに倒れる)
先生  はーっ、はーっ。なんなんだ、こいつは。
助手  ええっと、お前は、今は誰だ?
先生  はぁ?
助手  お手。
先生  やらねえよ!
助手  ああ、山田か
先生  そうだよ!
助手  じゃあ、千恵子は?
先生  知らない。俺、何も覚えてないんだけど、何があったんだ?
助手  私も席外してたからなあ……執事、いったいどうしたんだ?
先生  わかんねえよ。いきなり興奮して俺に襲い掛かってきたんだよ。
助手  なんだろう……千恵子が山田の体をつかって、この人を興奮させるようなことしたんじゃねえの?
先生  ええっ! ちょっ……えええっ!? 俺、なにしたの!?
助手  いや、千恵子、犬だから、そんなたいしたことしてないと思うぞ。せいぜい顔をぺろぺろ舐めるとか。
先生  大惨事じゃん! うええっ、ぺっぺっ! 俺、そんなことしたの!?
助手  だからわかんねえって。千恵子に聞かないと。
先生  くそっ、聴くの怖いな……! なんなんだよ、この家は。
  幽霊は俺の体狙ってくるし! 田所は俺の体狙ってくるし! なんなんだ、ここは、変態屋敷か!
助手  まぁこれでお前も幽霊の恐ろしさがわかっただろ?
先生  幽霊っていうか、どっちかっていうと、生きてる人間のほうが恐ろしかったぞ……!
助手  指輪手に入れて、さっさと帰るぞ
先生  そうだな……よし、千恵子探してきてくれよ。
助手  私だけ? お前も手伝えよ!
先生  そんなこと言われたって俺幽霊見えないから手伝いようがねえよ
助手  ちっ、しょうがねえな……そのかわり、報酬は七三で私が多くもらうからな
先生  し、七三? ちょっと! 五分五分で山分けするって約束だっただろ?
助手  あーはいはい。じゃあ、探してくるから(下手へ退場)
先生  えー、ちょっと待てよ。あーもう……
  (助手退場したあと)
先生  くそー。約束したのに……あーあ、俺の目も幽霊が見えればなあ……
  (A効果音ヒュードロロ)(執事ソファのかげから起き上がる。頭に三角布)
執事  いたた……う〜ん、何か一瞬、川とお花畑と死んだおばあちゃんが見えたような……
  ああ、先輩。びっくりしましたよ。いきなり殴りかかってくるなんて。
  もしかして先輩って、サディスティックな性癖をおもちなんですか?
  ふぅ……ますます気に入りました! 黙ってましたが、実は私はマゾヒスティックな面がありまして!
先生  ちょっと疲れたな。座るか。
執事  そうですね。座りましょう。
先生  はぁ〜
執事  もっと先輩のことが知りたいです。えっと……好きな髪型は?
先生  七三かぁ〜。
執事  し、七三ですか!(髪型を直す)
先生  こっち側が七なら良かったのに。
執事  あ、逆ですか!(髪型を直す)
先生  せめて五分五分だよな。
執事  えっ、真ん中わけですか?(髪型を直す)
先生  一番いいのは9:1くらいだけど。
執事  ええっ? もう。はっきり言ってください! なにが一番なんですか?
先生  まぁ、本当のこと言うと……全部おれだけのものにしたいな!
執事  ええっ!
先生  全部ひとり占めしたい……
執事  じょ、情熱的ですね。///
先生  でも、さすがに無理か〜
執事  そ、そんなことはないと思いますよ///
先生  俺の目がもっと特別だったらな〜
執事  いえ、先輩の瞳はきれいだと思いますよ。
先生  しかし考えてみたら、見えないだけで、いま近くに幽霊がいる可能性もあるんだよな。
執事  ええっ、ちょっ、脅かさないでくださいよ。わたし、幽霊とかそういうの苦手なんですよ。
先生  もしかしたらすぐ隣に座っていたり?
執事  や、やめてください!(ぎゅっと抱きつく)
先生  う……なんか体に寒気が……!
執事  そうですか……? 私は、むしろ体がほてってきましたが。なんでしょう、この気持ちは?
先生  肩、重い。
執事  いいえ、両想いです。
先生  いや、絶対に、肩重い!
執事  いいえ、絶対に両想いです!
助手  おーい。千恵子、どこにも……うおっ!(下手より入場)
先生  おお、清水
助手  あ、はい、すみません、邪魔して
先生  いいところに来たよ
助手  い、いいところなの!?
先生  なんか、さっきから体重くてさ。もしかして、この部屋幽霊いない?
執事  ひぃっ、だから怖いこと言わないでくださいよ!(強く抱き着く)
先生  うわっ、ますます重くなった!
  う〜ん、なんだこれ……おい、いつまでたってるんだ? とりあえず、ここ座れよ。(隣)
助手  そこに!?
先生  おお。結構座り心地いいぞ
助手  いっ、いやに決まってんだろ! お前と執事のプレイに私まで巻き込むな!
先生  執事? ああ、田所なら殴って気絶したまま、まだ目覚めてないけど?
助手・執事  は?
先生  ほら、そこ。(ソファのかげを指さす)
助手・執事  うわあああああっ!
執事  ええっ!? なんで、これ、私の体が!?
助手  お、お前、死んじゃったの!? なんで!?
執事  私も知りませんよ! 先輩に殴られて、倒れて、頭ぶつけて、気がついたら……
助手  え……
執事  え、じゃ、じゃあ、私は先輩に殺されたってことですか!? ……じゃあ、まぁいいか。
助手  よくねーだろ!
先生  おい? どうしたんだよ。なに騒いでるんだ?
助手  話しかけないでください!
先生  はぁ?
助手  私は山田さんとは一切関係ありませんし、雇われてませんし、会ったこともありません!
  警察にもそう証言してください!
先生  なんで警察が……
助手  お前は、大変なものを奪っていきました!
執事  私の、心です!
助手  命だろ!
  (B神様の声(讃美歌入り)。薄明り+中央スポットが執事を照らす)
神(録音)  ジョン……田所ジョンよ……
執事  えっ!? だ、誰ですか!?
神  私は、神だ。
執事  か、神様っ!?
神  田所ジョンよ。終わりの時が訪れたのだ。さぁ、天国の階段をのぼるがよい
執事  ま、待ってください! 私はまだ死ぬわけにはいきません! やっと……やっと愛する人と結ばれたのに!
神  安心するがよい。お前のような人、専用の天国がある。
執事  専用の天国?
神  住人は全員同性愛者。
執事  おお!
神  天使もインテリ天使、ダンディ天使、筋肉もりもりマッチョ天使と取り揃えている。
執事  鞭を使うのが大好きな、鬼畜どS天使はいますか!?
助手  ……ジョンよ……それは悪魔だ。
執事  じゃあ、先輩を一緒に連れて行ってもいいですか?
  先輩も私と一緒に死ねるなら、きっと文句は言わないはずです!
神  ジョン! わがままを言うのではない。専用の地獄に落としてもいいのだぞ。
執事  専用の地獄?
神  住人はかわいい女の子しかいない。
執事  地獄だー!
神  全員お前のことが大好き。
執事  地獄だー!
神  そして全員巨乳。
執事  地獄だー!
神  それが嫌ならば。さぁ。
執事  くっ……!
助手  ちょっと待て! おい! なんか、体から変な紐が伸びてるぞ!
  (讃美歌カットアウト。普通照明)
執事  え、ほんとだ、なんだこれ?
助手  あ! それきっと魂がまだつながってんだよ! もしかしたら今なら生き返れるかも!
執事  本当ですか!
先生  おい、どうした?
執事  あああっ!
助手  踏んでる踏んでる! 足どけろ!
先生  え?(逆足あげる)
助手  そっちじゃねえー!
先生  な、なんなんだよ
助手  ど、どうすればいいんでしょうか!
執事  こういうときは、えっと! 人工呼吸ですよ!
助手  ええっ? 私はお前と口づけなんていやだぞ!
執事  私だってあなたなんていやですよ!
助手  ああっ!?
執事  先輩にお願いしましょう!
助手  だな!
執事  んんー……!(口を近づける)
助手  いや、お前がしてどうすんだ! 体のほうだろ!
執事  あ、そうでした! よし!(先生の体をおさえつけて、ソファの裏へ)
先生  おい、さっきから何を騒いで……うおおっ!? ちょっ、なんか、不思議な力が俺を!
  俺を田所の唇へと導いていく! なんだこれ! 怖い怖い怖い! ちょっ待っむぐっんんんん〜っ!
  (C効果音わーお)(執事復活)
執事  ぷはあ〜! いや〜、助かりました!
先生  ……(前に出てきて倒れる)
助手  ちょっと! 今度は山田の意識がないんだけど?!
執事  ええ!?
助手  でも魂は出てない……気を失ってるだけみたいだな
執事  私とのキスがそんなに気持ちよかったんでしょうか……
助手  とりあえず、ちょっと休ませよう
執事  そうですね。では私の使ってるベッドにお連れします。
助手  ええっ? お、お前のベッドに連れてくの?
執事  大丈夫。寝心地いいのでゆっくり休めますよ。ダブルベッドですから。(先生連れて上手へ)
助手  ダブルベッド!? そ、それはちょっと……まぁいいか。(執事たちを見送り、残る)
  (下手から千恵子入場)
千恵子  レイカー! レイカ、どこー!
助手  ああっ! 千恵子!
千恵子  あ、お姉さん
助手  どこ行ってたんだよ! お前のせいで大変なことになっちゃったんだぞ!
千恵子  どうしたの?
助手  山田が…………恋人ができた
千恵子  よかったじゃん
助手  まぁ、それは別にどうでもいいんだけど。で? もう満足したのか?
千恵子  まだ! だってレイカにまだ会えてないもん! レイカー! どこにいるのー!?
妹  ……(上手から入場)(ボール持ってる)
千恵子  レイカ!
妹  ……呼んだ?
千恵子  うん、呼んだ!
妹  誰かに呼ばれた気がしたんだけど、あなた?
助手  えっ? いえ、私ではなくて……
千恵子  わたしだよ、わたし! レイカ!
妹  なに?
助手  あの……聞こえてるわけじゃないんですか?
妹  何が?
助手  えーと、その……
千恵子  お姉さん! レイカに私の言葉を伝えて! それが終わったら、ちゃんとお礼も渡すから!
助手  よ、よし! 任せろ!
千恵子  レイカ!
助手  レイカさん!
千恵子  私の言うことを聞いて!
助手  私の命令をききなさい!
妹  えっ
千恵子  このままじゃレイカが死んじゃうの!
助手  あなたはもうすぐ死にます!
妹  は?
千恵子  早くこの家から逃げて!
助手  早くこの家から出てけ!
妹  なんでそんな……
千恵子  レイカ
助手  レイカさん
千恵子  大好きだよ
助手  だいす……っ! いっ、言えるかよ!
千恵子  ちょっと! ちゃんと伝えてよ!
助手  そんな恥ずかしいセリフ言えるわけねえだろ! 自分で言え!
千恵子  ……分かった。じゃあ自分で言うね!
助手  は?
千恵子  体、借りるよ!(助手の体に飛び込む)
  (暗転3秒)(暗転中に千恵子は退場)
助手  うっ! ぐあああああ!(暗闇の中で)
  (明転)(助手は倒れてる)
妹  ……え? ど、どうしたの? 大丈夫?
助手  ん……レイカ!
妹  な、なに?
助手  レイカー! 会いたかったー!(抱き着く)
妹  えええっ!?
助手  レイカ! 大好き!
妹  ちょっ、待って。私、そんな趣味は……
助手  ねえねえ! 頭なでて、頭!
妹  はあ!?
助手  頭なでてってば! いつもみたいに!
妹  い、いや、初対面でそんな
助手  初対面じゃないでしょ! いっぱい遊んだり散歩行ったりしたでしょ!
妹  ええ? 覚えてないけど
助手  抱き合ってベッドで寝たり、一緒にお風呂入ったりもしたでしょ!
妹  いや! 覚えてないけど!?
助手  あ! ボール! (妹の持ってるボールに手を伸ばす)
妹  ちょっ! ボールに触らないで! これは千恵子の大切なボール!
助手  うん、そうだよ! 私の大切なボール!
妹  ……は?
助手  私だってば! 私! 千恵子だよ!
妹  ……は? ち、千恵子……?
助手  うん!
妹  ……(つきとばす)
助手  いたっ!
妹  そう……あなたもあのきもいおっさんの仲間だったんだ
  もう、私のことはほっといて! 千恵子は……千恵子はもういないんだから!
助手  いる! いるよ、ここに!
妹  うそっ!
助手  う〜ん……あ。レイカ、子どもの頃、自分がしたおねしょを、私のせいにしたでしょ。
妹  ……え?
助手  おかげで私が怒られて! 朝ごはん抜きにされて! 
妹  え、な、なんで、それ……
助手  でも、レイカはそのあとこっそり私にご飯もってきてくれたよね
妹  な、なんでそんなこと知ってるの!? それは私と千恵子しか知らないはず……
助手  だーかーらー、私が千恵子なんだってば!
妹  千恵子……?
助手  うん!
妹  本当に……千恵子なの……?
助手  うん! 久しぶり、レイカ!
妹  ちっ、千恵子ー!!(抱き着く)会いたかった! 会いたかったよ!
助手  レイカ!
妹  すごく悲しかったんだよ! 千恵子がいなくなって!
助手  うん、ごめんね……
妹  いいよ! これからまた一緒にいられるんでしょ?
助手  そ、それは、無理だよ。この体だって持ち主に返さなくちゃいけないし
妹  いいよ、そんなの! なんか変な人だったし、返さなくていいって!
助手  それに、いま悪い人がレイカを殺そうとしてるの!
妹  殺す?
助手  うん! だから早く逃げて!
妹  ……そう……わかった! 大丈夫! いいよ! 私、おとなしく殺されるから!
助手  ……え?
妹  殺されれて千恵子と一緒にいくよ! 天国! そうすれば、ずっと一緒にいられるよ! ね?
助手  え……
妹  え? 嬉しくないの?
助手  う……ううん! 嬉しい! 本当にいいの!?
妹  いいに決まってるよ! よし、準備しないと! あ、ボール! こういうの持ってける?
助手  う、うん、少しくらいなら。
妹  よし、じゃ、他にもいろいろ持っていこう! えーと、財布と身分証とスマホ……ん? 天国って電波入る?
助手  ど、どうかな?
妹  あとは〜、パスポート? 一応国外だしね。
助手  う、うん……
妹  良かった……! これで、ずっと一緒だよ! 千恵子!(助手に抱き着く)
助手  …………
  (暗転3秒)(暗転中に千恵子入場)→明転
助手  ………………わああああああっ!!(つきとばす)
妹  ええっ!?
助手  な、ななな、なにするんだ、いきなり!
妹  ……あれ? あなた、いま誰?
助手  はぁ?
妹  おて。
助手  やらねえよ!
妹  なんだ、別人か。え、じゃあ、千恵子はどこ? 千恵子〜! お〜い!(上手へ退場)(助手、千恵子は残る)
  (妹退場のあと)
助手  ちょっ、ちょっと待て、千恵子はここに……ああ、もう!
  千恵子ーっ! 勝手に人の体使って何するんだ!
千恵子  うん……
助手  まったく……! それで? レイカさんに言いたいことは言えたのかよ?
千恵子  うん……
助手  ふーん。良かったじゃん
千恵子  良かった……のかな……?
助手  え?
千恵子  う、ううん! なんでもない! 良かった、よね! 良かったに決まってるよ!
助手  ……千恵子?
千恵子  …………
助手  どうかしたのか?
千恵子  ……あのね……私、実は……
先生  うおおおおお!(下手より入場)
助手  おお、山田。どうした?
先生  どうしたじゃねえよ! 気がついたら、田所のベッドの上にいたから逃げてきたんだよ!
助手  ああ。
先生  お前、なんで止めてくれなかったの?
助手  でも、人の恋路を邪魔するのも悪いかなあって。
先生  邪魔しない方が悪いよ! そもそも恋じゃないだろ、あんなの! 自分の心押し付けてるだけで! 
  本当にその人が好きなら、無理やり一緒にいようとするより、その人の本当の幸せを考えるべきだろ!
千恵子  ……っ!(崩れ落ちる)
先生  ……え? なに今の音?
助手  ち……千恵子?
先生  え、千恵子いたの?
助手  どうした?
千恵子  そうだよ……そうだよね。やっぱりこんなのよくない。間違ってる……やっぱり間違ってるよ!
助手  え?
先生  なに? なんて言ってるの?
助手  なんか……山田と執事の恋愛話をきいて、間違ってる間違ってるって言ってる。
先生  ……うん。まぁ、間違ってるよ。いろんな意味で間違ってるよ。
千恵子  ありがとう!(先生に向かって)
助手  な、なにがだ?
千恵子  あなたの話をきいて、わたし目が覚めた!
先生  な、なに? なんなの?
助手  なんか……山田と執事の恋愛話をきいて、めざめたって。
先生  めざめちゃダメだろ、それは!
千恵子  本当にありがとう!
助手  おい、お礼って言うなら、指輪の場所を教えてくれよ
先生  そうだよ! それ教えてくれ!
千恵子  ゆびわ?
助手  こう、指にはめるやつだよ
先生  頼む、教えてくれ!
千恵子  ああ、それならあの花瓶の中に入ってるよ
助手  え
先生  頼む、教えてくれ!
千恵子  じゃ、私、もう一回レイカと話してくる。今度こそ、ちゃんとお別れを……(上手へ退場)
助手  あ、お、おう
先生  頼む、教えてくれ!
助手  ……
先生  頼む、教えてくれ!
助手  ……
先生  なんていってる?
助手  ……え? なに? まだ教えたくない、だって?
先生  ええ?
助手  ふむふむ……なにっ? 山田がなんか面白いことをやったら教える!?
先生  ええ?う〜ん、わかった
  (なんかやる)
先生  さあ、どうだこれで! な!
助手  すまん、今の嘘だ。
先生  嘘かよ!? 何させるんだよ、お前! え、じゃあ指輪の場所は?
助手  聞いた。
先生  どこ?
助手  教えてもいいけど、分け前は九一で。
先生  きゅっ、91!? おまえ、七三って言ってたじゃん!
助手  知りたくないなら別にいいけど?
先生  くっ……ちょっと待てよ。俺、田所に押し倒されて唇奪われて、ベッドにつれてかれて
  それで一割しかもらえないの?
助手  その代金は執事に直接要求しろよ
先生  だから、それでお金もらっちゃうと、違う商売になっちゃうだろ!
助手  で、どうすんだ? いいだろ、別に。一割っていっても1億円だぞ?
先生  う……ああ、わかったよ。じゃ91でいいから!
助手  よし。指環、その花瓶の中だってよ。
先生  これか! よし! うぉぉ……10億円の指輪……
  (花瓶の中から銃がでてくる)
先生  ……な……なんだ、これ
助手  銃……だな……
二人  ……ええええっ!?
先生  なんで!? なんで指輪っていったのに、銃が出てくるんだよ!
助手  知らねえよ!
先生  お前、ちゃんと千恵子に説明したのか!?
助手  したよ! こうやって、指にはめる……! あ。
先生  ……いや、確かに指にはめるけども! ええー、どうすんだ、これ。
助手  どうするっていわれても……
先生  ……分け前は確か91って話だったよな?
助手  いやー! 考えてみたら、助手の分際で分け前なんてもらえませんよね! どうぞ!
先生  いやいや、今回清水さんがいなかったら解決しなかったし、清水さんにあげますよ!
助手  いやいやいや、私なんて何もしてませんよ! すべては阿弥陀丸先生のお力です、さぁどうぞ!
先生  いやいやいやいや!
  (兄、上手より登場)
兄  どうしました?(上手より入場)
二人  うわあっ!
助手  な、なんでもありません!
先生  はい、何も見てません!
兄  え?
助手  あ、あの、ちょっとトイレ借りますね!
兄  ああ、トイレならドアを出て、右の廊下を、(下手を指さす)
助手  わかりました、それじゃ!(下手へ退場)
兄  うわ……よっぽど漏れそうだったみたいですね
先生  あ、あの、俺もトイレ借りますね!(下手へ立ち去ろうとする)
兄  あ、すいません、うちトイレ一つしかないんですよ
先生  えー、こんな金持ちなのに?
兄  すみません。千恵子が使ってた砂のトイレならあっちにあるんですけど。(上手を指さす)
先生  それでいいです!(逆の上手へ立ち去ろうとする)
兄  よくないでしょ!? ん……? 先生、なにか隠してません?
先生  か、かくしてませんよ
兄  なんか後ろに持って……ん? 何持ってるんですか、それ?(覗き込もうとする)
先生  ちょっ、やめてください、見ないでください、見な……やめなさい、ユウイチ!!
兄  えっ!?
先生  ユウイチ……!
兄  え、だ、誰?
先生  ……おばあちゃんじゃよ
兄  おばあちゃん!?
先生  お前がこの人に失礼なことしてるから、見るに見かねて化けてでてきたのじゃ
兄  ええー……
先生  見ないでと言われたら、無理に見ようとしちゃだめじゃぞ
兄  う、うん、ごめんなさい、おばあちゃん
先生  それに、お前、なんか悪いことしてるじゃろう?
兄  悪いこと? そんなことしてないよ
先生  いいや。一般市民が持ってちゃいけないものを隠し持ってたりしてるじゃろ
兄  してないって
先生  ちゃんとおばあちゃんの目を見て言えるかい? 人は嘘ついてるとき、まっすぐ見れず、目をそらすからね
兄  言えるよ。俺は嘘なんてついてない
先生  …………(目をそらす)
兄  なんでおばあちゃんのほうが目をそらすの?
先生  ま、まぁいいよ。じゃ、これからも悪いことしちゃだめじゃよ
兄  うん、しないよ
先生  仮にお前の秘密を誰かが知ってしまったとしても、殴ったりしちゃだめじゃぞ
兄  しないって
先生  その人を口封じに殺したりするのもだめじゃぞ
兄  しないってば
先生  あと屋敷に監禁して逃げられないようにするとかも、
兄  しつこいな?! まぁとにかくしないよ。それより、おばあちゃん。俺からも一つ聞きたいんだけど
先生  なんじゃ?
兄  おばあちゃん……いつのまに死んだの?
先生  …………
兄  おととい電話したときは元気じゃなかった?
先生  …………生霊じゃ
兄  いきりょう!?
先生  お前の声がききたくて、わざわざ幽体離脱してきたのじゃ
兄  電話つかってよ!
先生  じゃ、私は体に戻るからね。くれぐれも人に乱暴するんじゃないよ
兄  う、うん、またね
先生  はっ! わ、私は何を……
兄  ああ、先生ですか? 大丈夫ですか。さっきまで私の祖母がのりうつってたんですよ
先生  そうですか。全然覚えてないな〜!
兄  ああ、さっきはしつこくしてすみませんでした。祖母に叱られてしまいまして
先生  いやいや、お気になさらず。
兄  あ、おばあちゃん、ちゃんと肉体に戻れたかな……心配なので電話してきますね
先生  は、はい。あ、でもですね、生霊のときの記憶ってあいまいなものですから、覚えてないかも!
兄  そうなんですか。わかりました(上手へ退場)
先生  ふぅ……なんとかなるもんだな。さてと、どうするかな、これ。
  う〜ん、ここらへん隠しとくか。(ソファ)
  あー、怖い。何なんだ、この家。なんでもありかよ。拳銃に、幽霊に。ゲイ。
  もう指輪諦めて帰ろうかな……でもなぁ……(ソファの上手側のかげに座る)
  (コック下手より入場。先生には気づかない)
コック  うう……アレは見つからないし、せっかく作ったラーメンまでどっかへ行ってしまった……
先生  早く帰りたい……
コック  早く帰りたい……
先生・コック  でも、アレを見つけるまでは……
先生・コック  ……え?
コック  ああ、先生! ちょうどよかった! 言われた通り、庭じゅう掘り返したんですけど何も見つからなくて。
  もう一度千恵子さん呼んでくれませんか!
先生  あーいや、それなんですけど、今はちょっと……
兄  先生! (上手入場)(レイカをひっぱってきてる)
先生  はい!
兄  やっとレイカを見つけました! レイカのために、もう一度千恵子呼んでくれませんか!
妹  兄さん。私もう大丈夫だから。千恵子ならさっき、
兄  わかってる! 大丈夫! もうすぐ千恵子に会えるからな! さあっ、先生!
先生  あーいや、そのー
兄  お願いします!
コック  お願いします!
兄・コック  お願いします!
先生  ……わ、わかりました! それでは口寄せを開始します!
  えー…………千恵子さーん。すいませーん、いますかー?
  あのー、ちょーっと、もう一回だけとりついてほしいんですけどー?
  ねー? いる? いない? いないね?
  すいません。口寄せ失敗です
兄  最初とやり方違くないですか!?
先生  あ、ああ、こっちのやり方の方が成功率が高いんですよ
兄  失敗してるじゃないですか!
先生  あー、ちょっと最初のでパワーを使い果たしちゃったかなぁ? ちょっと休めば復活しますから
兄  そうなんですか。では、どうぞ座って休んでください
先生  はい。
  (先生が椅子に座ると同時に、Dパン!と拳銃発砲音)
全員  わあああっ!(全員驚く)(先生はここから気絶)
兄  な、なんですか、今のは!? 先生! 大丈夫ですか!?
  (執事、助手、上手より入場)
執事  なんですか、今の音は!? せっ、先輩!? 何があったんですか!?
兄  わからん。先生がソファに座った瞬間、いきなりおしりが破裂したみたいだ。
執事  ええっ!? 先輩のおしりって破裂するんですか!? …………ますます気に入りました!
助手  なんでもいいのかよ! ん、大丈夫。どこも怪我してません。ただびっくりして気絶してるだけです
執事  そうですか! じゃあ、とりあえず私が人口呼吸を!
助手  いや、必要ないでしょ!
執事  必要かどうかは、どっちでもいいじゃないですか!
助手  ええっ!?
妹  ね、ねえ!(ソファを確かめてた妹が、銃を見つける)
妹  な……なにこれ……
兄  拳銃!? なんでそんなものが!
助手  えっ? あなたの物じゃないんですか!?
兄  そんなわけないでしょう!
助手  じゃあいったい誰の……?
執事  とりあえず、警察を呼びましょう!
コック  まっ、待て!!(銃を奪い取る)
  くっ……警察を呼ばれるわけにはいかない……! こうなったら……!
助手  えっ? どういう……?
コック  おとなしくしろ! (銃をつきつける)
全員  ええーっ?(手を上げる)
コック  いいか。全員一歩も動くんじゃねえぞ!
千恵子  レイカー!(下手より入場) うわっ! なに!? ねえ、お姉さん、どういう状況?
助手  わかんねえよ! なんかそいつが……!
コック  あっ? おい、なんか言ったか!?
助手  い、いえ、なにも!
千恵子  ねえねえねえ! なに? なんなの?
助手  うるせえ、バカ!
コック  ば、ばかだと……?!
助手  ちっ、違うんです!
千恵子  これ、お姉さんにあげたやつだよね? なんでこの人が持ってるの?
助手  お前なあ! これは拳銃だよ! これで撃たれたら死んじゃうんだよ!
千恵子  ええっ!?
コック  ……お、おう。知ってるよ。
助手  なんとかしてくれ!
千恵子  なんとかって言われても……えいっ!(攻撃しようとするが、すり抜ける)
  やっぱりダメだぁ……ん……?(コックのにおいかぐ)くさっ! 脇がくさい!
助手  ぷっ。
コック  なに笑ってるんだ!
助手  すいません!
千恵子  あれ? でもこの匂いはどっかで……? たしか先週……?
兄  お、お前はいったい何者なんだ?
コック  それは……言えない……!
千恵子  ……あー! 思い出した! こないだ、宝石売ってるお店で、暴れてた人だ!
助手  ええっ? じゃあ、宝石店に押し入った強盗ってこいつ!?
コック  お前、なんでそれ知ってるんだ!
助手  あ、いや、その!
コック  誰に聞いた!
助手  そ、それは、そこの……(千恵子を指さすが、同方向に先生がいる)
コック  ん? この男か!
助手  いえ、そうではなく……
コック  じゃあ、誰に聞いた!
助手  ですから、そこの……
コック  やっぱりこいつか!
助手  いえ、ちがくてですね……
コック  なんなんだ! もういい! 答える気がないのなら、お前から殺す!
助手  はっ、はいっ! その男から聞きました!(先生指さす)
コック  そうか……おい、起きろ! おい!
先生  ……(ゆっくりと起きあがる)
コック  てめえ。なんで私たちの正体を知ってた? どこで知った?
先生  …………
コック  おい! きいてんのか! 早く答えろ!
先生  ………………私に、銃を向けるのかい?
コック  ああ?
先生  私は悲しいよ。お前はそんな子どもじゃなかったはずだよ?
コック  ……何を言ってるんだ、お前?
先生  わたしゃ……お前の、おばあちゃんだよ。
コック  お、おばあちゃん!?
先生  久しぶりだねぇ……ごんざぶろう
コック  なっ、なんで俺の名前……!
先生  わたしゃ何でも知ってるよ。お前が小学一年生の頃だったかねぇ。
  ごんざぶろうは道に捨てられていた子猫を拾ってきて。
  どうしても飼いたいっていうから、おばあちゃんと二人で、お母さんに一生懸命たのみこんだだろ?
コック  う、うそだ……まさか……まさか……!
先生  おばあちゃん知ってるよ。お前は本当は優しい子だって。ね、そうだろ? ごんざぶろう?
コック  ……おばあちゃん! (銃落とす)
兄  ジョン! いまだ!
執事  はい! (コックにしがみつき、キスをする)【効果音Eわーお】 コックは倒れる)
  ぷはあ……! 倒しました!
助手  その方法しかなかったのか!?
執事  あっ! すいません、これはやむをえずで! 嫉妬しないでください、先輩! ……先輩?
先生  う〜ん……ん? うおっ! な、なんだ!?
助手  お前、すげえな!
先生  え? いや〜、それほどでも。で、何が?
兄  先生、ありがとうございました! こんなことまで助けていただいて!
先生  い、いえいえ、どういたしまして。おやすいごようですよ、はっはっは……で、何が?
助手  こいつどうしましょうか?
執事  ああ、こちらに地下牢があります。警察がくるまでそこに閉じ込めておきましょう
助手  地下牢なんてあるの!? え、なんか変な商売でもしてるんじゃ……
兄  あ、違いますよ。こいつの個人的な趣味です
助手  ああ、なんだ……え?
  (わいわいと下手へ退場。妹だけがのこる)
  (妹がこっそり銃を拾って、自分のこめかみにおしあてる)
妹  千恵子……いま私もいくからね
千恵子  レイカ!?
妹  じゃあね、兄さん……さよなら
千恵子  だめーっ!!
  (暗転。F銃声)
  (しばらくしてからスポット)
千恵子  おなかへったー
   【声きっかけ、下手スポット】(FBGM)
  おなかへったよー。さむいー。ううー。
  ん?(空見上げ) なに? この白いの。食べ物? ……冷たい! 
  なにこれ! 食べ物じゃない! うう……もうだめ……
妹  ……犬? 【声きっかけ、上手スポット】
  ねえ……大丈夫? ねえ!
千恵子  ん……あなた、だれ?
妹  お、生きてる……おなかへってるの? これ食べる? さっきそこで買ったハンバーガーだけど……
千恵子  なにこれ! おいしい! おいしいおいしい!
妹  うわ! よっぽどお腹減ってたんだな……う〜ん、どうしよう……でも、お兄ちゃんがなんていうか……
千恵子  ねえ、もっとないの!? おかわりおかわり!
妹  んん……よし! 一緒に頼んでみよう! さ、おいで!
  (暗転)
妹  おーい 【声きっかけ、上手スポット】
  千恵子ー、散歩いくよー
千恵子  うん、いく! 早く早く!
妹  ちょっ、まだ靴はいてな、あああ!
  (暗転)
千恵子  おはよー。朝だよー
   【声きっかけ、下手スポット】
妹  おはよー。千恵子……あっ!
千恵子  おはよー……ん? レイカ? どうかしたの?
妹  うわぁ……
千恵子  あー! おねしょだ! あはは、レイカやっちゃったねー!
妹  ど、どうしよう。急いで布団隠して……ああ! お兄ちゃん! ちっ、違うよ! これは……千恵子が!
千恵子  ええっ!?
  (暗転)
妹  ねえ、千恵子……機嫌なおしてよ。
   【声きっかけ、下手スポット】
千恵子  ふん。
妹  悪かったって。私も怒られるの怖かったんだよ。
千恵子  レイカのバカ。嘘つき。
妹  ごめんって。お詫びに何か買ってくるよ。千恵子の食べたい物、なんでもいいよ。
千恵子  ほんとに? なんでも? じゃあ……ハンバーグ!
  (暗転)
妹  千恵子、見て!
   【声きっかけ、上手スポット】
千恵子  おー! ……なにそれ?
妹  これはねー、卒業証書だよ!
千恵子  おおー!! ……なにそれ?
妹  これで私もついに春からは……ああっ、ちょっ、ダメ! これはおもちゃじゃないの!
  (暗転)
千恵子  んんー…… 【声きっかけ、中央スポット】
千恵子  ん……レイカ、おはよう……朝だよ……(元気ない)
  朝…………(自分の両手をじっと見つめる)
  ごめん。わたし、やっぱりもう少し寝るね……おやすみ、レイカ…………
  (中央スポットをじょじょに暗転)
妹  千恵子〜。起きて、もう朝だよ〜。
  ……千恵子? 千恵子! ねえ、大丈夫!? ねえ!?
妹  千恵子が死んでから、 【声きっかけ、中央スポット】
  私はぽっかり胸に穴があいたみたいだった……
  でも、それももう終わる。大丈夫。怖くない。また千恵子と一緒に暮らせるんだ。
妹  じゃあね、兄さん……さよなら(銃をこめかみへ)
千恵子  だめーっ!!
  (暗転。G銃声)
  (銃声後、少しして明転。千恵子が腕をつかみあげている。銃口は天井へ)
千恵子  駄目だよ……やっぱり、こんなの間違ってるよ……
妹  ……あなたは……?
千恵子  レイカ
妹  ……千恵子? もしかして、あなた、千恵子……?
千恵子  ごめんね……今はまだレイカとは暮らせない。
妹  なんで、そんな……
千恵子  だって、レイカはまだ生きてるんだよ? 
妹  だっ、だから! 今すぐ死ぬって言ってるでしょ! そうすれば、また千恵子と暮らせるんだから!
千恵子  私はレイカに死んでほしくない!
妹  いいんだよ! どうせ生きてたってもう千恵子はいない! それならいつ死んだって……!
千恵子  レイカ!!!
妹  千恵子……
千恵子  私が死んですごく悲しかったんでしょ……すごくつらかったんでしょ……?
  じゃあ、なんで? レイカが死んだら同じ気持ちになる人がいるってどうしてわからないの?
妹  …………うっ(泣)
千恵子  ごめんね……さみしかったよね……
  でも大丈夫。レイカはひとりぼっちじゃないんだよ
妹  千恵子……(泣く)
  ……ごめん。私……千恵子がいなくなって……本当に悲しくて、それで……
千恵子  レイカ……
妹  千恵子……千恵子!(抱き合う)
千恵子  レイカ……笑ってよ。レイカの笑った顔、大好きだから
妹  …………
千恵子  だから、今度こそ……ちゃんと、笑って、送り出してほしいんだ
妹  ……わかった(泣き笑い)
千恵子  大丈夫。また会えるよ。
妹  うん……うん……!
千恵子  レイカが天国来たら、また一緒に散歩しようね。約束だよ
妹  うん……約束。
千恵子  またね。レイカ(スポットの外へ消えていく)
妹  ……またね。千恵子
  (暗転)
  (下手側に2人)
助手  はぁ〜、一時はどうなるかと思ったけど、なんとか解決したな
先生  いつばれるかヒヤヒヤしたけどな。
助手  でも、お前にあんなに人を騙す才能があるとは思わなかったよ。特に最後! すごかったな!
先生  ん? 最後?
助手  あ、そういえば、なんで、ごんざぶろうって名前知ってたんだ?
先生  ごんざぶろうって?
助手  だから、あの、コックの名前。
先生  え、あいつごんざぶろうっていうの? へー、にあわねえな。
助手  ……え?
先生  あ〜あ。しっかし、明日からどうするかな〜。次の仕事考えないと……
助手  なんだよ、霊媒師続けないのか?
先生  そりゃお前は幽霊見えるからいいけど、俺何の力もないしなぁ
助手  そんなことないと思うぞ?
先生  え?
助手  ま、いいや。とりあえず今回の報酬で、しばらくはゆっくり……あああっ!
先生  どうした?
助手  おい、報酬まだもらってないぞ!
先生  ああー! 俺もらってくる!
助手  待て、おい! 私の取り分も忘れんなよ!
  (先生と助手、上手に退場。入れ替わりで兄、コック上手より登場)
兄  ええっと、警察は、いち、いち、ぜろ……
コック  ちょっ! ちょっと待ってください! 警察だけは!
兄  いや、そう言われても
コック  お願いします、許して下さい! 何でもしますから!
兄  何でも? 本当に? じゃあ……ここで働いてみるか?
コック  ええっ?
兄  いやなのか?
コック  いえ、むしろ願ったり叶ったりですけど……俺なんかを雇って大丈夫ですか?
兄  大丈夫! 君は根は悪い人間じゃない。私は人を見る目には自信があるんだ!
コック  よ、よろしくお願いします!
兄  おお、よろしく! じゃあ、さっそく何か食事を作ってもらおうかな
コック  はい! ではミラノ風ペンネアラビアータを。(上手へ退場)
兄  そんなの作れるのに、そもそもなんで強盗なんてやってたんだ。(あとおって上手へ退場)
  (入れ替わりで上手から妹入場。ボールを見つめる)
助手  くっそー、見つからねえなぁ……(下手から上手へ移動)……あっ! 
妹  あ、さっきの。
助手  あー、レイカさん。お出かけですか?
妹  ちょっと……千恵子のお墓へ。これを届けに。
助手  ボールを……
妹  ずっと手放せずにいたけど……やっぱり私より、千恵子が持ってるほうがいいと思ったから
助手  そうですね……きっと喜びますよ。千恵子さん、本当にそれ大好きそうだったから。
妹  ……(うなづく)
助手  あ。それで、先生を探してるんですけど、まだ家にいるはず……
先生  うおおおお!(上手から下手へ走って逃げる)
助手  お、おい、山田!? 待て、私の取り分は!?(追って退場)
執事  待ってください、先輩! なんで逃げるんですか!(上手から下手へ走って追う)
兄  待ってください、先生! これ! お礼の指輪!(手に指輪。上手から下手へ。途中で呼び止められる)
妹  兄さん!
兄  おお、レイカ
妹  どうしたの、それ?
兄  ああ、これ。千恵子が隠しちゃった指輪。先生の言うとおり、犬小屋探したら出てきたんだよ。
  どうせだから、お礼に先生にあげようと思ってな。
妹  千恵子そんなことしてたんだ。
兄  ああ。オシャレだから、ついつけてみたくなったらしい。
妹  そんなんじゃないと思うよ。たぶん大きなアメかなんかと間違えたんじゃない?
  まったく。しょうがないんだから(笑顔)
兄  レイカ……なんか、明るくなったな
妹  そう、かな
兄  それにそのかっこう……出かけるのか? 外に?
妹  うん……千恵子の墓参り。まだ、ちゃんとやってなかったから。
兄  ……そうか。
妹  兄さん……いろいろ、ごめんなさい。心配かけて。
兄  いいさ。レイカが元気になってくれて、本当に良かったよ。
妹  ……兄さん
兄  なんだ?
妹  ……ありがとう
兄  ……ああ。
  
先生  うおおおおお!(下手から上手へ走る)
助手  山田! 私の取り分!(下手から上手へ走る)
執事  先輩! 私の先輩!(下手から上手へ走る)
兄  先生! お礼の指輪!(追って上手へ走る)
妹  ……(全員を見送り、ちょっと笑って下手へゆっくりと退場)
  
  
<閉幕>  




<劇団「無題」TOPに戻る>
Copyright (C) 2006 劇団「無題」.  All Rights Reserved.


100MB無料ホームページ可愛いサーバロリポップClick Here!