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オサキマックラ動物園

 
 かの有名なヤミヨノ国のことを君はどれくらい知ってるだろうか。
 全然知らない? それは残念だ。あんな不思議な国のことを知らないなんて!
 なにが不思議かって、ヤミヨノ国には昼がないんだ。一日中明けない夜がずうっと続いている。暗くてさみしい夜の国。
 そんなところ誰も住みたくないよね。ところが世界は広い! 喜んで住んでる人もいるんだ。大きな声じゃ言えないけどね、それはいわゆる泥棒だった。
 想像してみなよ、どんなに住みやすかったか! たとえ警察に追われてても、この国じゃちょっと路地裏に隠れただけで闇の中さ。みんな夢の泥棒ライフがここにこそあると信じた。
 ところが、やっぱり世の中うまくはいかないね。

「やいやい! 俺の金を盗みやがったな!」
「偉そうに言うな! お前の金じゃなくて、お前がどっかから盗んできた金だろう!」
「いいから早く返さないと、ひどいぞ!」
「取り返せるもんなら、やってみな。その金はもうないんだから」
「なに! 使っちまったのか?」
「盗まれちまったんだよ!」

 そうなんだ。泥棒は盗むのが商売なんだけど、この国じゃ盗まれるのもまた泥棒。一晩でいくら稼いだって、寝て起きたらもうなくなっている。どんな鍵も金庫も役に立たない。そりゃそうさ。この国には世界中の大泥棒が集まっているんだから。
「このバカどもが!」
 世界一の大泥棒ネコソギは、みんなを集めてこう言った。
「俺たちはみんな楽して金持ちになりたくて泥棒になったはずだ。今は何だ? どんなに苦労したって次の日には一文無し。これじゃ夢の泥棒ライフなんて永遠に来ないぞ!」
「それじゃ一体どうしよう?」
「いい考えがある。この国に観光名所を作るんだ。外国からゾロゾロ人が見にくるような。人を集めといて、そいつらから盗めばいい」
「なるほど。それなら美術館はどうだろう? 俺は世界中から盗んだ名画を持ってるぞ」
「バカもん。ここはヤミヨノ国だぞ。絵なんか暗くてよく見えるもんか」
「じゃあ動物園なんてどうだろう?」
「動物園?」
「ライオンもトラもみんな夜行性だろ? 昼間はぐでーっと寝てる姿しか見れないんだ。ピョンピョン元気に跳ね回ってるライオンを見れたら、きっとみんな喜ぶぞ」
 そいつはいいと泥棒たちは拍手かっさい。さあ、それからの仕事は早かった。みんなで手分けして南のライオン、北のトラと世界中の動物を盗みまくった。3日後にはもうオープン。初代園長のネコソギは、そこを『オサキマックラ動物園』と決めた。

 オサキマックラ動物園は連日連夜の大にぎわい。ライオンやトラがこんなに動き回っている動物園はない。しかも時には吠えたりする。暗闇で突然「ガアッ!」とくるから、これもスリルがあってたまらない。西から東から世界中のお客さんがやってきた。
 ところがところが、やっぱり世の中うまくはいかない。
「バカどもが! せっかく人がいっぱい集まっとるのに、なぜ泥棒の仕事をせんか!」
「そうは言ってもネコソギさん。俺たちは動物園が忙しくてそれどころじゃありません」
「動物の世話がこんなに大変とは思わなかったよ。あいつら、ものすごくよく食うんだ」
「そりゃそうさ。一日中走り回ってるんだ。腹が減らないわけがない」
「バカ、バカ、バカもん! 夢の泥棒ライフを忘れたか!この動物園はものすごい人気なんだ。このままじゃ俺たちは大金持ちだぞ!泥棒が何も盗まずに金持ちになるなんて、そんなバカな話があるか!」
 ネコソギは怒って、割れんばかりに机を叩いた。
「あの〜」
 そんな時おずおずと手を上げたのは、まだ新入りの泥棒だ。ネコソギは身を乗り出した。
「おお! 何かいいアイデアが思いついたのか?」
「いえ、違うんです。実は私の世話してるサルが風邪をひいてしまったんです。看病しに戻ってもいいですか?」
「バッ、バッ、バッカもーん!」
 顔を真っ赤にしたネコソギは、とうとう机を叩き割ってしまった。
「どうして、そんな大事なことを早く言わんのだ!」
 ネコソギは立ち上がってテキパキと指示を出した。
「すぐに看病に戻れ!栄養のあるものを食べさせるんだ。他の動物にもうつるかもしれんから全員気をつけるんだぞ!
 それと! 楽して稼げる方法をみんな考えとけよ! 来週また会議を開く! では解散!」
 すぐさま全員持ち場に戻った。ネコソギものんびりしていられない。すぐに獣医さんに相談して健康診断に来てもらわなくては。
 夢の泥棒ライフはまだまだ遠い。



<終わり>
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